プロダクトを開発する上で避けてとおれないのが利用規約づくりです。とくにエンジニアの方にとっては本質とずれた作業で、面倒だと感じるかもしれません。ただ、利用規約はプロダクトにとって大きくリスクを下げられる重要な文書でもあります。
この記事では利用規約とはなにか、つくる目的やつくりかたについて書いています。プロダクトをリリースする前に、ぜひ一度立ち止まって読んでいただければと思います。
テクニカルライター。元エンジニア。共著で「現場で使えるRuby on Rails 5」を書きました。プログラミング教室を作るのが目標です。
はじめに読むべき本
プロダクトにとって、利用規約はとても重要な役割を果たします。たとえ個人開発であっても、その重要性は変わりません。プロダクトを正式にリリースする前に、必ず専門家にチェックをお願いしましょう。
利用規約について、法の知識がない方にもわかりやすくまとめている書籍として『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』があります。本記事とあわせてぜひ本書をお読みください。
利用規約とは
利用規約とは、ユーザーがプロダクトを利用する上でプロダクトの提供者と交わす決まりごとを示した文書をいいます。ユーザーがこれに同意することで効力が発生します。
利用規約は、ユーザーにとってはたんにプロダクトを利用するために同意する必要がある文書に過ぎません。ただプロダクトの提供者にとっては、ユーザーとの間にトラブルが発生したときに、自分たちを守るという重要な役割をもっています。
一般的な決まりごとを示す利用規約、個人情報の取り扱いについて示すプライバシーポリシーのほかに特定商取引法に基づく表示などもあります。プロダクトの性質に応じて、必要な文書を定める必要があります。
利用規約をつくる目的
利用規約は、ユーザーとの不要なトラブルを避けるため、また万一トラブルに発展しても自分たちを法的に守るためにつくります。
たとえばユーザーが不適切な投稿をしたときについて考えます。利用規約に不適切な投稿を禁止する事項が明記されていれば、それに基づき削除できます。ただ、禁止事項がない場合、ユーザーとのトラブルに発展し、内容によっては損害賠償責任を負う必要が出てくるかもしれません。
ブランドへの影響も
また、利用規約はユーザーからの信頼にも影響します。プロダクトの提供者にとって一方的に都合のよい利用規約をつくってしまうと、SNSで炎上してブランドを毀損してしまうかもしれません。実際に同様の事例は数多く発生しています。
逆に、利用規約を守ることでユーザーにもたらされるメリットを示したり、わかりやすくようやくすることで、プロダクトへの信頼を高めることができます。利用規約は、ユーザーとのトラブルへの対応だけでなく、ブランドの面でも重要な役割をもっています。
利用規約の書き方
はじめに、利用規約の作成はプロダクト開発の中でもリスクの大きな作業になります。この記事の「はじめに」でも書いたように、弁護士と連携しながら作成する必要があります。
最近だとオンラインサービスをとおして数千円程度で専門家にレビューをお願いできます。積極的に利用しましょう。ここでは利用規約を作成する方法をふたつ示します。
1. テンプレートを利用する
「はじめに」でも紹介しましたが、利用規約について書かれている書籍として『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』があります。この本は利用規約についての基本的な知識をひととおり学べるほか、実践的なテンプレートも紹介されています。プロダクト開発に関わる方にとっての必読書といえます。
個人開発のプロダクトや、一般的なビジネスモデルのプロダクトであれば、このテンプレートを利用することで対応できます。ただ、プロダクトがちょっとでも特殊な仕組みをもっているなら、テンプレートだけでは対応できません。その場合は弁護士の方に相談するようにしましょう。
2. 弁護士に作成を依頼する
利用規約をつくるのには専門知識が必要で、ゼロから自分でつくるとなるととても時間がかかります。それよりもプロダクトの開発に時間をかけるべきです。上記書籍で基本的な知識は身につけつつ、作成自体は弁護士にお願いする方法がもっとも安全かつ確実です。
とりわけ法人としてプロダクトを運営する場合は必須だといえます。ただ、弁護士に依頼するにしても、すべて丸投げというわけにはいきません。弁護士は利用規約には詳しいですが、あなたのプロダクトに関しては初心者です。
プロダクトの機能やスキーム、それだけでなく「プロダクトを将来的にどうしていきたいか」というミッションまでを共有することで、将来のリスクを防げるような規約づくり、体制づくりができます。
自分だけでつくらない
よく見かけるやり方として、有名なプロダクトをいくつか参考に、コピー&ペーストで自分のプロダクトに合った形に修正する、というやり方があります。この方法は絶対にやめましょう。
上記書籍はせいぜい数千円ですが、十分実践的な内容でテンプレートも入手できます。この本を読んでテンプレートを利用するだけでもかなりリスクを軽減できます。他のプロダクトの利用規約は、あくまで「どういう条項があるか」の参考程度にとどめるべきでしょう。
利用規約への同意の取り方
利用規約への同意の取り方については、とくに決まりはありません。ただ、満たすべき要件については経済産業省が「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の中で定めています。これを満たすシンプルな方法として、次の3つを行えばよいでしょう。
- 利用規約へのリンクを表示する
- 同意ボタンにより画面を遷移させる
- プロダクト内のすべての画面から1度の画面遷移で利用規約を確認できるようにする
たとえばもっと厳しく同意を求める方法として「全部スクロールしないと同意ボタンがアクティブにならない」というやり方もあります。が、これはユーザーの体験としてはよくありません。
一方で、会員登録時に利用規約へのリンクはあるけど場所がわかりづらいなど、同意したとはいえないような状況は決してつくるべきではありません。
プロダクトを守りつつ、上記準則を満たし、ユーザー体験を損なわない方法で同意を得るようにしましょう。
いつ利用規約をつくるか
利用規約はMVPをリリースする前につくります。MVPは検証が目的といってもユーザーの方に実際に利用してもらいます。データも扱うことになります。MVPから利用規約を運用しましょう。
また、実際の開発に入る前にビジネススキームの適法性を確認する必要もあります。できるだけはやい段階で、スタートアップに強い弁護士などに相談する機会をつくりましょう。
まとめ
プロダクトにとって、利用規約は自分たちを守るため、ブランドを構築するために重要な文書です。つくるときは、開発初期や個人開発などでは書籍のテンプレートを利用する手もありますが、法務レビューは受けるようにしましょう。
MVPの段階でビジネススキームの適法性を確認する必要もあるので、スタートアップに強い弁護士に継続的に相談できる体制をつくるのがベストだといえます。