ウェブサービスの開発において、目を向けなければならない大きな課題のひとつが経済性です。つまりそのプロダクトを運営することで十分な収益を得ることができるか?です。
プロダクトが成長したりユーザーの規模がふえることによって、運営するためのコストはどんどん大きくなっていきます。そのための利益を生み出せないと、せっかくユーザーに価値を提供できるプロダクトでもクローズせざるを得なくなるかもしれません。
プロダクトの事業としての経済性を評価する手法としてユニットエコノミクスがあります。この記事では、ユニットエコノミクスとはなにか、計測する目的や計算方法について書いていきます。
テクニカルライター。元エンジニア。共著で「現場で使えるRuby on Rails 5」を書きました。プログラミング教室を作るのが目標です。
ユニットエコノミクスとは
ユニットエコノミクスとは、ユニット、つまりユーザーひとりあたりの経済性をあらわす指標をいいます。ユーザーひとりが、生涯にわたってプロダクトにもたらしてくれる収益(LTV: Life Time Value)と、ひとりのユーザーを獲得するためのコスト(CAC: Customer Acquisition Const)をもとに計算します。
ユニットエコノミクスは、プロダクトの事業としての経済的な健全性がわかる重要な指標のひとつです。
ユニットエコノミクスを評価する目的
ユニットエコノミクスは、プロダクトの事業としての経済的な健全性を計測するために評価します。プロダクトのアイデアを出したとき、まずはじめの目標はProduct Market Fit、つまりプロダクトが市場に受け入れられた状態を達成することです。
これは、たんに機能がユーザーの課題を解決していればいいわけではありません。健全性、つまりユーザーからの収益で事業が十分成り立つことを評価しなければなりません。
将来の売り上げは計算しづらい
ただ、ほとんどのプロダクトは最初に開発コストなどを投資しつつ、サブスクリプションなどですこしずつ収益を上げます。サブスクリプションの単価は小さいので、ユーザー数の少ない初期は先の方まで売り上げが計算しづらく、継続性が見えづらいという問題があります。
ユーザーの獲得自体は広告をたくさん出稿すれば達成できますが、それで本当にいいのかどうか。どれくらいマーケティングに予算を費やせるのか。これは、事業としての経済性をユニットエコノミクスで評価することでわかります。
ユニットエコノミクスは、ユーザー獲得のための広告の予算をふくめた、プロダクトの事業としての健全性を計測するために評価します。
LTVとCAC
ユニットエコノミクスは、LTVとCACというふたつの概念から構成されます。ここでまずこのふたつについて整理します。
LTV: Life Time Value
LTVは顧客生涯価値のことで、ユーザーが生涯にわたってプロダクトにもたらしてくれる収益をいいます。LTVの一般的な計算式は次のとおりです。
LTV = ユーザーひとりあたりの平均収益 / 解約率
つまり、長期間にわたって継続的に利用してくれるユーザーであるほどLTVが高くなります。プロダクトにとって、LTVがプラスであることが条件なのはいうまでもありません。プロダクトの料金を設定するとき、ユーザーにもっと利用してほしいからといって安くするとLTVがマイナスになるので注意が必要です。
CAC: Customer Acquisition Cost
CACは顧客獲得単価のことで、ユーザーひとりあたりの獲得単価をいいます。CACの一般的な計算式は次のとおりです。
CAC = 顧客獲得にかかる費用の総計 / 獲得した顧客数
顧客獲得にかかる費用とは、マーケティングや営業、そのほかブランディングのコストなどもふくまれます。いくらまで費用として使えるかは、LTVをもとに判断します。これは次章で書きます。
ユニットエコノミクスの計算方法
それでは本題のユニットエコノミクスについてです。ユニットエコノミクスは、上で示したLTVとCACを用いると、次の式で表されます。
ユニットエコノミクス = LTV / CAC
つまり、ユーザーがもたらしてくれる収益が高く、顧客獲得コストが低いほどユニットエコノミクスがよい、ということになります。たとえばLTVが¥10,000でCACが¥5,000ならユニットエコノミクスは2になります。
ユニットエコノミクスの健全な数値とは
さて、ユニットエコノミクスを計測する目的は事業の健全性を継続するためだと書きました。では具体的にユニットエコノミクスはどれくらいの数値であればいいのでしょうか。一般的には、ユニットエコノミクスが3以上ならプロダクトは健全である、といわれています。つまり次の式が成り立つときです。
LTV / CAC > 3
PMFを目指す段階で、この数字も合わせて目指しながら開発を行なっていく必要があります。また、CACの回収期間は短ければ短いほどキャッシュフローが安定します。逆に回収期間が長すぎるのは問題といえます。一般的には6〜12ヶ月でCACを回収できるといいとされています。
まとめ: ユニットエコノミクスの健全性
以上をまとめると、ユニットエコノミクスの健全性としては、次が成り立つことでプロダクトは健全であるといえることになります。
- ユニットエコノミクスが3以上であること
- CACの回収期間が6〜12ヶ月であること
ユニットエコノミクスを改善するには
ユニットエコノミクスの計算については上に書いたとおりです。では、プロダクトのユニットエコノミクスがよくないとき、どうやって改善すればいいのでしょうか。前述のとおり、ユニットエコノミクスは次の式で表されます。
ユニットエコノミクス = LTV / CAC
つまり、LTVを高めるか、あるいはCACを下げればユニットエコノミクスは改善します。LTVを高めるには、顧客単価を高めるか、原価を下げるか、解約率を下げるなどが考えられます。たとえばプロダクトの価値を高めたり、カスタマーサポートなどで顧客体験を高めるなどの施策を取ります。
一方CACを下げるには、マーケティングコストを下げるか、コンバージョン率を高めるなどが考えられます。たとえばブランドを強化したり、サイトを改善するなどの施策を取ります。
注意点
LTVやCACは外部環境に大きく影響します。たとえば競合がいればLTVは下がりCACが高くなってしまいます。動画配信サービスにおいて、プレイヤーがNetflixだけならLTVやCACはよいでしょうが、Amazon PrimeやHuluがいることでLTVやCACが悪化するのは予想がつくと思います。
また、LTVやCACはプロダクトの普及ステージによっても変わります。アーリーアダプターは低コストでユーザーを獲得できますが、マジョリティになるにしたがってコストは高くなります。ユニットエコノミクスは早期に結論づけず、継続的に計測することが重要です。
まとめ
プロダクトの事業としての継続性を測る方法としてユニットエコノミクスがあります。LTVとCACを計測することで算出できます。PMFを目指す上で、ユニットエコノミクスが3以上になるようLTVとCACの改善を行うことで、持続可能なプロダクトにすることができます。